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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)2722号 判決 1991年3月13日

原告

横山栄理

ほか一名

被告

青松吉銖こと沈吉銖

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二九九万〇四三八円及びこれに対する昭和六二年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し民法七〇九条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(左記の交通事故を以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六二年四月二八日午後一〇時二五分ころ

(二) 場所 愛知県刈谷市今川町山ノ神五二番地交差点(以下「本件事故現場」という。)

(三) 原告車両 原告運転の普通貨物自動車(三河四〇て六九七七)

(四) 被告車両 被告運転の普通乗用自動車(名古屋七七な八二〇二)

(五) 態様 本件事故現場は、信号機により交通整理の行われている交差点であり、原告車両は、同所を南方から北方へ進行し、被告車両は、西方から東方へ進行していたところ、被告車両が、進行方向の信号が赤色点滅を表示していたにもかかわらず一時停止を怠つたため、原、被告車両が衝突した。

(六) 結果 原告は、本件事故により、右膝等挫傷の傷害を受けた。

2  損害の填補

原告は、被告の加入していた自賠責保険より一二〇万円の支払を受け、同額の損害の填補を受けた。

二  争点

被告は、原告が本件事故現場において、徐行義務を怠つたことを理由として二割の過失相殺がなされるべきであると主張するほか、本件事故による損害額(但し、治療費、通院交通費及び物損については当事者間に争いがない。)を争う。

第三争点に対する判断(なお、成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立の認められる書証については、成立の判断を省略する。)

一  本件事故の態様等

当事者間に争いのない事実に、甲第一ないし第一五号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。すなわち、本件事故現場である愛知県刈谷市今川町山ノ神五二番地交差点は、信号機により交通整理の行われている交差点であるが、本件事故当時である昭和六二年四月二八日午後一〇時二五分ころ、同交差点の信号機は、原告車両の進路である南北方向については黄色点滅を表示し、被告車両の進行方向である東西方向については赤色点滅を表示していたのであるから、原告車両は徐行義務があり、被告車両は、同交差点で一時停止の義務があつた。被告は、同時刻ころ、友人二名を同乗させて被告車両を運転して、時速約六〇キロメートルで西方から東方へ向けて進行して本件事故現場に差し掛かつたが、交差道路に通行車両が認められなかつたことや他の友人との待ち合わせ時間も迫っていたことから、赤色点滅信号に従つて一時停止することもなく、時速約四〇キロメートルに減速したのみで本件事故現場である交差点に進入した。一方、原告も、同時刻ころ、原告車両を運転して時速約四〇キロメートルのスピードで南方から北方へ向けて進行して本件事故現場に差し掛かつた。本件事故現場である交差点は、東西方向については知立バイパスの橋脚が道路中央部に設置されていることから、片側ずつ一方通行の状況になつていたところ、原告は、東方から西方に向かう道路との交差部分に進入するに際して時速約三〇キロメートルに減速したものの、徐行することなく進行し、さらに、西方から東方に向かう道路との交差部分に進入するに際しても前記橋脚のために見通しがよくなかつたものの、車両等が確認できなかつたことから、そのまま、時速約三〇キロメートルで進行した。そのため、被告は、原告車両を右斜め前方約六・五メートルの位置で、一方、原告は、被告車両を左斜め前方約六メートルの位置で、それぞれ認めたが、双方ともに急制動の措置を講じたが間に合わず、それぞれの車両を発見したのと同時くらいに衝突し、被告車両が原告車両を七・二メートルほど引きずつた後に停車した。この事故のため、原告は、約一週間の通院加療を要する右膝部、左下腿部挫傷の傷害を受けた。

ところで、原告は、原告が右傷害の外に、肋骨骨折の傷害を受けた旨主張し、それを前提として損害賠償を求め、原告の父親で柔道整復師である原告補助参加人横山榮二(以下「補助参加人」という。)の証言中右に沿う供述があるところ、甲第一三号証によれば、本件事故直後に原告を診断した医師辻村明の診断は、前記認定のとおり、約一週間の通院加療を要する右膝部、左下腿部挫傷の傷害であると認められるうえ、補助参加人の供述によつても、同人がレントゲン等により肋骨骨折を診断したものでなく、触診によるものにすぎないと認められ、原告本人尋問の結果によれば、原告は事故直後三日くらいは当時在籍していた名古屋女子大学を休んだものの、その後は同校に通学していたことも認められるから、こうした事実に照らして考えると、原告の主張に沿う補助参加人の右供述は措信しがたいというべきであり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、右認定にかかる本件事故の態様に照らせば、原告と被告の過失割合は、二対八と認めるのが相当であり、被告は、本件事故により生じた原告の損害の八割相当額について、これを賠償すべき義務があるというべきである。

二  損害について

1  治療費(請求も同額) 七六万九七五五円

治療費については当事者間に争いがない。

2  通院交通費(請求も同額) 三二五〇円

通院交通費については当事者間に争いがない。

3  休業損害(請求一五八万八〇七五円) 四万一八九九円

原告は、本件事故による傷害により、昭和六二年四月二九日から同年八月三一日まで稼働できなかつたことを理由に、アルバイト収入(進学塾及び補助参加人の接骨院の事務)相当の損害金を請求するが、前記一認定のとおり、原告は約一週間の通院加療を要する右膝部、左下腿部挫傷の傷害を受けたに止まり、かつ、原告は事故直後三日くらいは当時在籍していた名古屋女子大学を休んだものの、その後は同校に通学していたことが認められるうえ、原告本人尋問の結果によれば、原告が同大学の通学には通常利用する電車で五〇分くらい、車で通つた場合でも三五分も要していたことが認められ、こうした事実を総合すると、原告が主張するように、本件事故による傷害により、昭和六二年四月二九日から同年八月三一日まで稼働できなかつたとは到底認められず、通学と就業との差異を十分斟酌しても、通院加療期間である一週間を超えて休業することが不可避であつたとは認められない。以上の事実によれば、原告が本件事故により休業を余儀なくされたのは一週間であると認めるべきである。

そして、原告本人尋問の結果及びこれにより成立を認められる甲第一九及び第二〇号証によれば、原告は、進学塾である有限会社池田学園進学ゼミでアルバイトの塾教師として稼働し、本件事故前三か月間の平均をとると、一日当たり四八二〇円の収入を得ていたこと、昭和六二年五月からは昇給し時間給一六〇〇円(但し、週稼働日数五日で一日当たり六時間稼働)、月の付加給三万円の支給を受けることになつていたこと、事故による異常等の発生していない昭和六二年三月の稼働日数が二六日であることから、一日当たりの付加給を算定し、これを加えた昭和六二年五月以降の収入は一日当たり一万〇七五三円となること、昭和六二年四月二九日から休業を余儀なくされた一週間のうち、稼働日数は五日と認められること等の事実が認められる。そして、本件全証拠によるも、昭和六二年四月二九日から休業を余儀なくされた一週間のうち、そのいずれの日時に原告が稼働することが予定されていたかについては、これを認めることはできないが、少なくとも四八二〇円に二を乗じた九六四〇円に、一万〇七五三円に三を乗じた三万二二五九円を加算した金額を下回ることがないものと認められる(すなわち、四月に二日稼働し、五月に三日稼働するとの想定の計算を下回ることはないものと認められる。)。

さらに原告は父である補助参加人の経営する接骨院の事務を手伝い収入を得ていたとするが、これを裏付けるものとしては、補助参加人の証言と補助参加人が事後的に作成した甲第二一号証、原告本人尋問の結果があるものの、原告と補助参加人が父子関係にあるうえ、原告本人尋問の結果から窺われる進学塾を含めた原告の稼働状況は学生のアルバイトであることを考えると不自然の感を払拭しえず、甲第二一号証が事後的に作成されたにすぎないことをも斟酌すると、前掲の各証拠によつては、原告は父である補助参加人の経営する接骨院の事務を手伝い収入を得ていたと認めることはできないというほかなく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告が本件事故により生じた損害として被告に請求しうる休業損害の額としては四万一八九九円というべきである。

4  慰謝料(請求二九万三〇〇五円) 一〇万円

前記認定にかかる事故状況、原告の受傷状況に照らせば、慰謝料としては一〇万円が相当である。

5  物損(請求も同額) 四三万七五〇〇円

物損については当事者間に争いがない。

6  代車使用料(請求三〇万円)及び休車補償(請求一〇万円)

原告は、本件事故により、補助参加人が往診に原告車両を使用できなくなつたことにより損害を被り、被告に対して損害賠償請求権を取得したところ、その損害賠償請求権について、原告が補助参加人より譲渡を受けたことを理由に代車使用料三〇万円及び休車補償一〇万円を請求する。ところで、右主張を前提にする限り、右は本件事故により生じた特別損害というべきであるから、被告においてその発生を予見できた場合を除いては、これを被告に請求できないものであるところ、本件全証拠を総合しても右事実を認めることはできないから、その余の点についても判断するまでもなく、代車使用料の請求は理由がない。

7  以上を総合すると、原告の本件事故により生じたと認められる損害の合計金額は一三五万二四〇四円となるところ、これに二割の過失相殺を行うと原告が被告に請求しうる損害は金一〇八万一九二三円(円未満切捨)となり、原告が既に一二〇万円の損害の填補を受けていることは当事者間に争いがないから、原告の損害はすべて填補済みと認められる。

8  弁護士費用(請求二七万一八五八円)

右のとおり、本件事故による原告の損害はすべて填補済みであつて、残損害はないから、損害の存在を前提とする弁護士費用の請求は理由がない。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 深見玲子)

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